超電導物性・NMR分光グループ

研究背景

■ 超伝導の歴史  ~超伝導発見から100年の道のり~

ある温度以下で電気抵抗が突如ゼロになる「超伝導現象」は1911年に水銀で発見されて 以来、より高い温度で超伝導が起こる物質の探索が長年続けられてきました。図はこの 100年を超える超伝導物質発見の軌跡です。

1957年にバーディーン、クーパー、シュリーファーにより打ち立てられたBCS理論が、 金属などで起こる超伝導機構を説明し、それまで知られていた様々な超伝導の性質を見事に 説明しました。BCS理論は、量子現象のマクロレベルでの出現という超伝導の驚くべき 本質を見事にとらえていました。しかし一方で、BCS理論の枠内で考えると、その 超伝導転移温度は約40K程度(約-233℃)を越えないとも言われるようになり、当時 「BCSの壁」と呼ばれていました。その後30年間は、多くの研究者の努力にも関わらず、この予測を越えるような超伝導体は見つかりませんでした。

ところが1986年、ベドノルツとミュラーにより銅を含む酸化物が30Kという転移温度を 示すという驚くべき報告が発表され、世界中で一斉に銅酸化物超伝導体の研究が始まりました。そしてそのわずか3か月後には、Y系と呼ばれる銅酸化物において、転移温度はついに BCSの壁を打ち破り92Kという温度にまで到達したのです。さらに超伝導転移温度の記録は短期間のうちに次々と塗り替えられ、高圧下の水銀系銅酸化物で最高転移温度153K (ゼロ抵抗) (当時164K(約-109℃)と見積り)を記録しました。

下の図を見ても銅酸化物超伝導体の発見がいかに驚くべき発見であり、この分野の研究者に どれほどの衝撃を与えたかを想像いただけると思います。

*ちなみにこのように高い転移温度を示す物質を、高温超伝導体といいますが、まだまだ室温に 比べるとかなり低温です。「従来のものと比べて」という意味で「高温」超伝導と呼んでいます。


その後2008年には、銅酸化物に次ぐ高温超伝導物質(Tc~55K)が鉄系化合物で発見された ときも驚きでした。世界中で類似物質の探索、超伝導電子状態の研究が盛んに行われ、今も新しい発見が続いています。

これらの高温超伝導物質群はBCS理論では説明できないことが知られており、高温超伝導体の 発現機構の全容をうまく説明する体系だった理論、万人が納得する理論は未だにありません。

また、発見される様々な新しい物質系の中には、Tcがそれほど高くなくとも超伝導状態や 発現機構には驚くほど多様性があることもわかってきています。新しい超伝導体の発見に日々驚かされながら、それらを理解するための研究が世界中で行われています。

そんな中、2015年超高圧下の硫黄水素化物で203K (約-70℃)もの高温超伝導が発見され、 再び世界中が驚き、その解明が急がれているところです。

果たして、いつか室温で起こる超伝導体は見つかるのでしょうか?  --- これは誰にもわかりません。明日どこかで発見されるかもしれないし、100年後もまだ 見つかってないかもしれません。

研究の最前線では、従来の超伝導の理解の枠組みを超える高温でなぜ超伝導が起こるのか、 どこまで転移温度を上げることができるのか、手探りの新物質探索と共に、固体物理学の謎として残っている高温超伝導発現機構の解明に向けて、世界中の研究者がしのぎを削っています。

我々の研究室では、核磁気共鳴(NMR)法という実験手法の特徴を生かした研究から、 さまざまな新しい超伝導物質の発現機構や、新しい超伝導相がもつ新規な量子相の解明を 目指して日々研究を進めています。